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No.770

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#舞台裏の欠片
「遊蝶花と微毒」1
ネルの過去話
その少年は天才だった。

三歳にして魔法原素を知覚し、五歳にはそれを別々に操ってみせた。そして七歳になる頃には、もはや大人と遜色ない術式を唱えられたのである。
彼の才覚は、300年続く家の名を背負うには充分すぎるほどであった。
「お前がいれば、このマクローヴェン家もかつての栄光を取り戻せるだろう」
大人たちは彼を褒めそやし、彼はその称賛の上を行くよう、彼らの期待のすべてに応えてみせた。

「書架の本を半分も読んだのか」
そう驚けば、数日後にはすべての本の内容を(そら)んじてみせる。
「あの試験の最年少通過者は十歳だけれど、あなたなら九つになる来年にも受かるでしょうね」
そう示してみれば、記録を八歳に塗り替える。
「――あの子はくすりとも笑わないんです。どこか不気味なくらい」
下働きの者がそんな陰口をこぼしたなら、次の日から人が変わったようににこやかに振る舞うようになった。

彼は完璧だった――いや、完璧になっていった。
(これぐらい、何かしたうちに入らない。課題も足りない。僕はもっと多くのことができるのに、大人は僕のことを甘く見ている)
どの試練も、彼にとっては遊びのようなものだった。

やがて、彼を子ども扱いする者はいなくなった。
それどころか、大人たちは彼により厳しく接し、彼の前で慎重に言葉を選ぶのである。
その鋭い金の瞳に、己の欠陥を見破られぬように。

―――

九つ離れた弟は、彼と似ても似つかぬかった。

どれだけ待っても魔力の才は見えず、その他の勉学すらもままならない。
不器用という言葉をそのまま当てはめたような要領の悪さをしていた。

「兄ちゃん、この文章の意味を教えてよ」
「俺は試験が近いから、父様にでも聞け」
自分の後をついてくる弟に対し、彼はいつだって置き去りにするよう歩を早めるのだった。
それでもなお自分の背を追ってこようとする、その無邪気な姿が憎らしかった。

何もできないのに努力しようとする。
何もできないのに笑っている。
何もできないのに家族の目をひく。
なんて愚鈍で、醜くて、情けないんだろう。

(俺はお前とは違う、天才なんだ。お前の視点なんて分かるものか)
彼は歩き続けた。決して足元を振り向かないよう。

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