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No.773

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#舞台裏の欠片
「テンシヒョウホン」2
ロージィの過去話
鮮やかな薔薇色と黄金に身を包んだその姿は、真っ白な廊下ですれ違う者の目を惹きつけた。
すれ違う誰もが振り返る。

「見て、あの翅の色! 鱗翅族でしょう? なんて綺麗な蝶なのかしら」
「おいおい、触角を見れば分かるだろ、あいつは蛾だぜ? ずっと笑ってるが、何を考えているか分かったもんじゃない」
「確かに、翅のビロード質はあまり品がないわね。……あなた、あれと専攻が同じなの?」
「ああ。ロージィ・ヘイワードだったか。蛾のくせに舞台芸術科(ウチ)に来るなんて、どんなコネがあったんだか」

行き交う好奇の視線と品定めの言葉の中、僕は背筋を伸ばして堂々と歩いた。

“この世界にいる鱗翅人外において、蝶と蛾の明確な区別はなく、これらの立場は平等である”。
――そんな科学的事実は全員の知る所であったが、所詮は社会の体裁だ。
人々は未だに、代々引き継がれてきた鱗粉まみれの色眼鏡を外さずにいる。

コネで進学した? 正解だ。
友人の父親がこの大学の教授で、進学にあたって色々な援助(・・)をしてくれた。それがなければ僕はこんな所にいない。
……まあ、蛾の学生を最低一人は入れろ、というお達しに応えるためでもあったらしいのだけれど。

いくらでも、なんとでも言うと良い。
僕はどんな蝶よりも良い成績を残して、誰よりも輝いてやる。蛾は蝶に追いつけないなどという世間のくだらない物差しをへし折ってやるのだ。
そのためならば、生まれ持ったこの鮮やかで美しい身体を武器にすることなど厭わない。

歴史のある学舎は著名な建築家である卒業生によって改築されたてで、白と銀の建材でモダンに仕上げられていた。
僕は建築のことは分からないが、これが新しい時代に相応しく美しいものであることは分かる。
ほら、世界は平等の先の進歩を、新しいものを、求めている。
僕はガラスに反射した自分の姿を見つめる。
白い枠におさまる紅色と黄色の翅は、間違いなくどんな蝶よりも美しかった。


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