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No.696
2025年10月13日(月)
〔33日前〕
絵
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すき!
#銀嶺の獣
掌編(1387文字)
山の天気が変わるのは、突然だった。
散歩の間に吹雪に吹かれたゼルデデは、一人と一匹をかついで近くの洞窟に潜り込んだ。薄暗い闇の中に下ろされたふたりは、雪の張り付いた顔を見合わせた。オオカミのアルは、ニーナが冷えないようにぎゅっと体を近寄せる。
洞窟の奥で、ゼルデデが何かがたがたと音を立てている。状況がまだあまり理解できていない少女は、呑気に質問を投げ掛けた。
「ねー、何してるの」
その高い声は、洞窟の中にわあんと響いた。絶えず反響している外の風音と重なって、耳の奥が揺れる。
ゼルデデはただ一言「準備」とだけ返事をする。暗い中で何をしているのか、ニーナの視界にはほとんど映らない。
やがて彼は入口付近の、どうにか吹雪の風が当たらないくらいの場所に腰を下ろす。そして懐から取り出した火打ち石で、枯れ枝の隙間に小さな火を起こした。その火は辺りをかすかに照らす。ニーナとアルはぴったりくっついたまま、そこへ近付いた。
「あったかいねぇ」
少女は手をかざして微笑む。
ゼルデデは黙って、火の様子を見ながら淡々と枝を投げ込んでいく。枝はぱちぱちと音を立て、段々と火の勢いも強まってきた。
洞窟の壁に、三つの大きな影がゆらゆらと映る。
『よく燃やせるような枝があったな』
それは二人にだけ聞こえるアルの声だ。ゼルデデは火から一切目を離さずに、ぼそぼそとした低い声で答える。
「この辺りはよく通るから、こういう時のために、時々補給しているんだ。奥に小さな縦穴もあるから、換気も心配ない……良い場所だ」
少し明るく照らされた辺りを見れば、火を焚いた跡や掃除をした形跡が見える。
『こういう場所は、他にもあるのか?』
「……何ヵ所か、ある」
会話はそれきりで、暖かな炎に照らされた空間には、ごうごうと吹く風の音が響いていた。
火が安定してくると、ゼルデデは雪で濡れた上着を脱いだ。上着の表面が乾くようにそばの地面に広げ、いつの間にか外していた仮面を、その上に静かに置く。
ゼルデデが焚き火に向かってどしりと腰を下ろすと、アルとニーナは彼を挟むようにぴったりとくっついて座り込んだ。
「ねえゼルデデ、お話して」
ニーナはそう言ってゼルデデを見上げる。目が合うと、金と青の大きな瞳はぱちぱちと瞬きをした。
「話、だと?」
「うん!」
「話すことなど、ない」
考える素振りもなく、ゼルデデは首を横に振った。少女は頬を膨らませる。
「えーっ。作り話でも、昔話でも、何でもいいんだよ。このままじゃ眠くなっちゃう! アルもそうでしょ?」
『オレは別に……』
オオカミはそう言いかけて、目の前にいる少女のしかめっ面の意味を汲み取った。
『ゼルデデ、オレもお前の話が聞きたいな。お前はこの中で一番長生きだから』
男は一人と一匹の顔を見やると、眉間の皺に手を当てて、低く長いため息を吐きだした。
少し間をおいて、観念したように口を開く。金色の目に、焚き火の明かりがちらついた。
「……俺が子どもの頃に聞いた話だ。昔、とある村に男が住んでいたという。彼はたいへんな正直者で――」
普段とは違う朗々とした語り口に、ニーナとアルは一瞬目を見合わせた。しかしその驚きは、話に聞き入っていくとすぐにどこかへ行ってしまった。
低い声で紡がれる語りが、洞窟内にこだまする。うなる風音と、枯れ枝がはじける音とが重なって、まるで歌のように響いていた。
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散歩の間に吹雪に吹かれたゼルデデは、一人と一匹をかついで近くの洞窟に潜り込んだ。薄暗い闇の中に下ろされたふたりは、雪の張り付いた顔を見合わせた。オオカミのアルは、ニーナが冷えないようにぎゅっと体を近寄せる。
洞窟の奥で、ゼルデデが何かがたがたと音を立てている。状況がまだあまり理解できていない少女は、呑気に質問を投げ掛けた。
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「あったかいねぇ」
少女は手をかざして微笑む。
ゼルデデは黙って、火の様子を見ながら淡々と枝を投げ込んでいく。枝はぱちぱちと音を立て、段々と火の勢いも強まってきた。
洞窟の壁に、三つの大きな影がゆらゆらと映る。
『よく燃やせるような枝があったな』
それは二人にだけ聞こえるアルの声だ。ゼルデデは火から一切目を離さずに、ぼそぼそとした低い声で答える。
「この辺りはよく通るから、こういう時のために、時々補給しているんだ。奥に小さな縦穴もあるから、換気も心配ない……良い場所だ」
少し明るく照らされた辺りを見れば、火を焚いた跡や掃除をした形跡が見える。
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『ゼルデデ、オレもお前の話が聞きたいな。お前はこの中で一番長生きだから』
男は一人と一匹の顔を見やると、眉間の皺に手を当てて、低く長いため息を吐きだした。
少し間をおいて、観念したように口を開く。金色の目に、焚き火の明かりがちらついた。
「……俺が子どもの頃に聞いた話だ。昔、とある村に男が住んでいたという。彼はたいへんな正直者で――」
普段とは違う朗々とした語り口に、ニーナとアルは一瞬目を見合わせた。しかしその驚きは、話に聞き入っていくとすぐにどこかへ行ってしまった。
低い声で紡がれる語りが、洞窟内にこだまする。うなる風音と、枯れ枝がはじける音とが重なって、まるで歌のように響いていた。
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