Blog
カテゴリ「文字」[12件]
2025年4月2日(水)
〔27日前〕
文字
生と死だ。
サザンカが咲き始めている。
いつだか、春夏秋冬のどれに一番「死」の印象があるか? というアンケートを見た。
そこでの最多票は冬だったけれど、自分は秋だなと思った。
死ぬものは死んでいき、まだしばらく生きるものは眠る準備を始める、無常の季節。
それが秋。
このからんとした空気を冬のうちに忘れてしまわないよう、
今のうちにたくさん吸っておこう。
2024年7月31日(水)
〔272日前〕
文字
2024年7月31日(水)
〔272日前〕
文字,雑記やメモ
夏に大音量の鳴き声を浴びるたびに、小学生の夏休みに夜更かしして観察したセミの羽化を思い出す。
つやつやの茶色い殻から出てくる、奇妙な天使のような、青白くてくしゃくしゃな生命力と幸運の塊。
すべてのセミの人生に確かにあのひとときがあるんだよなあ。
#好き語り
いつも見る景色なのに、しんしんと降る雪に包まれた道は普段とずいぶん違ったように見える。木も建物も、なにもかもの輪郭がしろく縁取られて、いつもより周りがやわらかく広く見えるのだろうか。
山茶花の濃いピンクと緑にかかる銀色は、ずいぶんと洒落て見える。
ここは関東平野だからぼたん雪だ。服の上に落ちても、ひと呼吸の間にじゅわ、と溶けて、水の跡だけになってしまう。つるつるした服なら、生地の上で水の球に変わっていくのも面白い。
積もりはじめた足元には、たくさんの足跡がある。足跡のところは、少し水でしゃばしゃばしていて、シャーベットのようにも見える。美味しそうでもある、かもしれない。
ほんの少し、傘が重くなったような気がする。見上げると、傘の色の向こうに、薄く積もった雪の影が見える。雨じゃあこうはならない。帰って振り落とすのが楽しみだ。どのくらい積もるかな。
そんなに長くない散歩だったけれど、だんだんと道の白さが強まっているような気がする。風は強くないけれど、意外とたくさん降っているみたいだ。
少し前についたであろう足跡が、雪に覆われて薄くなっている。時間経過が目に見えているようで面白い。犬の足跡、子どもの足跡。自転車はさすがに押して帰ったのかな、なんてことを思う。
雪の濃いところを踏んでみると、最初は「しゃり」だったのが「ぎゅむ」に変わっている。雪が靴の足裏に詰まった感じがすると、次に踏み出すときに転ばないよう少し気を付ける。なめらかな道や坂をここまで怖がることも、普段の生活であまりなくて少し面白い。
明日は早起きをしよう、と思った。できるだけ、足跡がまだつかないような時間に外を見たい。雪が積もった朝の特別感とわくわくは、子どもの頃から全く変わらないんだなと思う。
散歩ついでに家族に頼まれていたおつかいを済ませたけれど、雪に浮かれすぎてバファリンとロキソニンを間違えた。
畳む
2023年8月7日(月)
〔1年以上前〕
文字
2023年7月31日(月)
〔1年以上前〕
文字
#荒野の華
衣服は基本的に葉が変形したものだが、手袋と靴は作られたものである。
塔のなかでほぼ唯一、彼女たちが自らの手で作り出したものともいえよう。
衣服の古くなった箇所を切り取ったり、葉や刺を使ったり。また、勇敢な個体が外で狩ってきた虫の外装は、丈夫で加工にも耐える人気の素材だ。
強い日差しが降り注ぐ外に出る際には欠かすことのできない手袋と靴だが、そも外に出るような個体は極めて稀であるので、彼女たちの多くは単なる装飾として楽しんでいる。
セダムやセンペルビウムなどの一部は、蒸れるからと手袋をしない個体も多く居るようだ。
衣服は基本的に葉が変形したものだが、手袋と靴は作られたものである。
塔のなかでほぼ唯一、彼女たちが自らの手で作り出したものともいえよう。
衣服の古くなった箇所を切り取ったり、葉や刺を使ったり。また、勇敢な個体が外で狩ってきた虫の外装は、丈夫で加工にも耐える人気の素材だ。
強い日差しが降り注ぐ外に出る際には欠かすことのできない手袋と靴だが、そも外に出るような個体は極めて稀であるので、彼女たちの多くは単なる装飾として楽しんでいる。
セダムやセンペルビウムなどの一部は、蒸れるからと手袋をしない個体も多く居るようだ。
ロクの名前についての昔話
「タラッサ、って、何?」
「ああ、これか。私の名前だよ。」
「なまえ……。魔女、じゃない?」
ロック鳥は首を傾けた。物には名前がある、それは魔女が教えてくれたことだ。だから、彼はてっきり「魔女」というのがこの人間の名前なのだと思っていた。
魔女は頷いた。
「魔女というのは、私に後から付けられた記号のようなものだよ。タラッサというのが本当の名前なのだ。私はよく知らないが、どこかの海の神と同じだとかね。……だが、どうでもいい。今ここで私のことを呼ぶ者は誰もいない。」
穏やかな低い声でそう云い放ち、魔女は紙を暖炉に放り込んだ。伏せた目に、火の粉がぱちぱちと光る。
「いる、よぶひと。」
魔女の服をぐいと引っ張ってロック鳥は言った。振り返った魔女に、しっかり目を合わせる。真っ直ぐな視線に、魔女は気が抜けたように微笑み返す。
「そうだったな。」
「だが、良い。お前には魔女と呼ばれたほうが心地が良いのだ。ここに過去の私、タラッサはいない。居るのは只の魔女とお前だけ……」
魔女はそう言いかけたところで口をつぐんだ。ロック鳥は、考え込む魔女の顔を覗き込む。
「どうした?」
「私の名前は魔女で充分――だが、お前は名前が欲しいかい?」
ロック鳥はぱっと顔を明るくした。
「ほしい! 私の名前!」
「折角だから、何かお前の好きなものにしよう。何が良い?」
彼は、好きなものとして何にするかはすぐに思いついたようだったが、それを表す丁度いい言葉が決まらないようで、自分の知っている言葉から探すように、色々な単語を挙げていった。
「しま、じめん、りく、つち……」
「土地、孤島とかか?」
魔女は試しに似たような言葉を挙げてみる。ロック鳥は納得いかない様子で、言葉に迷いながらも言った。
「タラッサは、海。じゃあ私は、海じゃないところ……がいい。海と島は、ずっと隣だから。」
魔女は困ったように、嬉しそうに笑った。
「お前は本当に甘えるのが上手だなあ。」
少し待ちなさい、と言って魔女が自室から取ってきたのは、かなり分厚い本だった。魔女の片手にやっと収まる大きさの本を開いて現れた、びっしりと埋まったページに何が書かれているのか、ロック鳥にはさっぱり分からなかった。豆粒の様に小さい文字は、そもそもどうやって書いたのかと驚くほどだった。その様子を見て魔女は説明した。
「これは辞書というものだ。ものの名前と、その意味が書いてある。……この文字が小さすぎて読めないなら、お前がもっと小さくなれれば良いのだよ。」
しょんぼりするロック鳥をよそに、魔女は声色を明るくした。
「これなんてどうだね。東方の国の言葉だが、ロック鳥に近い響きがある――それに、お前も言いやすそうだろう、ロク?」
ロック鳥は、これまでにない位の笑顔をうかべて、とびきり良い返事をしてみせた。
畳む