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No.683
2025年8月2日(土)
〔196日前〕
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すき!
「大悪党地獄ヶ原斬人」
ロクのその後の話(ネタバレも捏造もある)
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目が眩む。
刺すような光の衝撃を受け、ロクの視覚は未だちかちかと明滅していた。鳥の目は急な光に弱い。彼は煙く濁った空気のなか、瓦礫の中に横たわったまま、閉じた目を片手でそっと覆う。
目蓋の裏はまだ白黒していたが、彼の口角はいつもと変わらない様子で薄く上がっていた。
「いやあ、はは。これは仕方がないね」
ざわめきを遠くに、誰もいない空間に向かって呟く。体の痛みは普段なら気にならなかったが、いつもより小さな体だから多少は気にかけたほうがいいのだろうな、とぼんやり考える。仕事仲間に心配をかけるわけにもいかない。
ざわめきの向こうから妙な鳴き声のような音が近付く。サイレン、というやつだろう。立ち上がろうとしたが未だ目眩が残っていて、少し動いただけで頭が揺れるようだった。彼は静かに諦めた。
軽い入院と聞き取りが終わり、ロクは街に繰り出していた。出張の日程はオーバーしていたが、これだけの事件に巻き込まれた彼を心配して見にきた同僚に、あと数日だけとわがままを言ったのである。実際、まだ見ておきたい場所はいくつか残っていたのだ。
この東京という街はずっと、彼にとって眩しかった。
彼はヒトという種が好きだ。それは、好奇心の塊である彼にとって、常に変化と進化を続ける人間の社会というものが、彼を楽しませてくれたからである。ロクはいつだって、ただ新しいものを見たがったし、ただ知らないことを求め続けていた。
そういう点で、東京はとりわけ面白かった。ヒトが作った複雑な街は見知らぬもので溢れていて、ロクの目にはあちこちが輝いて見えた。
立ち並ぶ建物も、行き交う人も、色とりどりの食べ物も、空を貫くような巨大な塔も……それから、あの小さな大悪党も。
ロクは立ち寄った喫茶店で、果物の香りがする紅茶を頼んでみた。案内された椅子は少し小さかったが、大通りが眺められる良い席だ。あの高い塔は、ここからは見えない。
(彼女の仕事は、果たして上手くいったのだろうかね)
それが唯一の気がかりだった。自分のしたことは、果たして手伝いに足りえたのか。
注文した紅茶がロクの前に置かれた。よく冷えた飲み物の中、氷が光って浮いている。窓から一直線に差し込む光を、その中で何度も屈折させて、複雑なきらめきに変えているのだ。
仕事。ロクにとってその言葉は、生きる上で必要のないこと、を差していた。
どうにかその日の獲物にありつくのとも、立ったまま浅い眠りにつくこととも、嵐を予測することとも違う。「生きること」が確かになったうえでできる、面白くて、幸福なことだ。
だから、仕事のために自らの命を犠牲にするという話は、どうにも解らなかった。
あの子は大悪党だったのか?
あの子は大悪党になるべきだったのか?
人間が進化の果てに大切なことの順序を違えるようになるならば、その生き物を自分はまだ肯定できるのだろうか。
未だに心の中に答えは出ない。
からん、と手元の氷が涼しい音を立てる。
歴史を変えられるなんて、光栄なことだ。
彼女に投げた自分の言葉を思い出す。
ロクは人間ではない。彼は部外者として、自身が人間の社会構造に口出しをするのをよしとしなかった。自分は招かれてもないのに人間社会を覗きに来ているだけなのだから。聞いたことのある言葉を借りるならば、わきまえる、というやつだ。
それでもあの展望台でロクは、多少の無茶をしてでも、目の前の好奇心の芽を掬いとりたかった。わきまえるなんて考えはなかった。
昔誰かから聞いた言葉が脳裏に流れる。
――疑いと知識欲はいつだって隣り合わせにあるものだが、疑念は時に純粋な好奇心を押さえつける。
疑うことが常々苦手なロクは、彼女を前に初めてその意味を理解した。
疑心から顔を覗かせた好奇心。束の間の彼女がみせた言葉のきらめきは、あのまま大悪党として失われるには、あまりに惜しかった。
ロクは店を後にした。
ここから少し電車に乗れば、海の近い水族館があると聞いている。きっと水棲生物の展示の参考になるだろうし、もし時間があれば海を眺めるのも良いな、と思っていた。
駅に向かう人混みのなか、ロクはその高い視界の端に、ひとつの人影をとらえた。
一瞬戸惑ったが……いや、見間違うことはない。その姿には見覚えがあった。なぜなら、つい先日、彼が借りてしまった姿なのだから。
――それはもしや、いつかのどこかの大悪党だろうか?
いいや、小さくて少し体が丈夫なだけの、ただの少女に違いない。
ロクの足は迷わずそちらへ歩み寄り、小さく手をあげて言った。
「やあ、そこの、ああそうだな……君のことは、なんと呼べばよかったかね?」
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刺すような光の衝撃を受け、ロクの視覚は未だちかちかと明滅していた。鳥の目は急な光に弱い。彼は煙く濁った空気のなか、瓦礫の中に横たわったまま、閉じた目を片手でそっと覆う。
目蓋の裏はまだ白黒していたが、彼の口角はいつもと変わらない様子で薄く上がっていた。
「いやあ、はは。これは仕方がないね」
ざわめきを遠くに、誰もいない空間に向かって呟く。体の痛みは普段なら気にならなかったが、いつもより小さな体だから多少は気にかけたほうがいいのだろうな、とぼんやり考える。仕事仲間に心配をかけるわけにもいかない。
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軽い入院と聞き取りが終わり、ロクは街に繰り出していた。出張の日程はオーバーしていたが、これだけの事件に巻き込まれた彼を心配して見にきた同僚に、あと数日だけとわがままを言ったのである。実際、まだ見ておきたい場所はいくつか残っていたのだ。
この東京という街はずっと、彼にとって眩しかった。
彼はヒトという種が好きだ。それは、好奇心の塊である彼にとって、常に変化と進化を続ける人間の社会というものが、彼を楽しませてくれたからである。ロクはいつだって、ただ新しいものを見たがったし、ただ知らないことを求め続けていた。
そういう点で、東京はとりわけ面白かった。ヒトが作った複雑な街は見知らぬもので溢れていて、ロクの目にはあちこちが輝いて見えた。
立ち並ぶ建物も、行き交う人も、色とりどりの食べ物も、空を貫くような巨大な塔も……それから、あの小さな大悪党も。
ロクは立ち寄った喫茶店で、果物の香りがする紅茶を頼んでみた。案内された椅子は少し小さかったが、大通りが眺められる良い席だ。あの高い塔は、ここからは見えない。
(彼女の仕事は、果たして上手くいったのだろうかね)
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注文した紅茶がロクの前に置かれた。よく冷えた飲み物の中、氷が光って浮いている。窓から一直線に差し込む光を、その中で何度も屈折させて、複雑なきらめきに変えているのだ。
仕事。ロクにとってその言葉は、生きる上で必要のないこと、を差していた。
どうにかその日の獲物にありつくのとも、立ったまま浅い眠りにつくこととも、嵐を予測することとも違う。「生きること」が確かになったうえでできる、面白くて、幸福なことだ。
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あの子は大悪党になるべきだったのか?
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それでもあの展望台でロクは、多少の無茶をしてでも、目の前の好奇心の芽を掬いとりたかった。わきまえるなんて考えはなかった。
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――疑いと知識欲はいつだって隣り合わせにあるものだが、疑念は時に純粋な好奇心を押さえつける。
疑うことが常々苦手なロクは、彼女を前に初めてその意味を理解した。
疑心から顔を覗かせた好奇心。束の間の彼女がみせた言葉のきらめきは、あのまま大悪党として失われるには、あまりに惜しかった。
ロクは店を後にした。
ここから少し電車に乗れば、海の近い水族館があると聞いている。きっと水棲生物の展示の参考になるだろうし、もし時間があれば海を眺めるのも良いな、と思っていた。
駅に向かう人混みのなか、ロクはその高い視界の端に、ひとつの人影をとらえた。
一瞬戸惑ったが……いや、見間違うことはない。その姿には見覚えがあった。なぜなら、つい先日、彼が借りてしまった姿なのだから。
――それはもしや、いつかのどこかの大悪党だろうか?
いいや、小さくて少し体が丈夫なだけの、ただの少女に違いない。
ロクの足は迷わずそちらへ歩み寄り、小さく手をあげて言った。
「やあ、そこの、ああそうだな……君のことは、なんと呼べばよかったかね?」
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